スリップアウト
- 15hono20
- 2025年12月23日
- 読了時間: 5分
更新日:6 時間前
※ノクがセツの恋人を装う描写があります
※セツ、ノクが沙明を軽く侮辱する描写があります
「何度言えば分かるんだ、沙明。いい加減にしろ」
「それはこっちのセリフだっつの!セツなら全然イケんだって、何度も言ってんだろ?」
ループ二日目の議論後。船内の通路で、沙明がセツの行手を阻んでいた。無視して去ろうとするセツを逃すまいと、沙明が絡む。
「今日こそ付き合ってくれよ。アツゥイ夜にしようや」
「断る」
しつこく口説き続ける沙明。実力行使という単語がセツの脳裏に浮かんだ。
「ンー?どした?振られてんのか、沙明?」
その時、セツの背後からノクが現場を通りかかった。挨拶がてら、沙明を軽く煽る。
「ノク……ちょっとなんとかしてくれないか」
「チッ、ツラの良い野郎が来やがった」
邪魔に入られ、沙明は露骨に表情を歪める。対するノクは微塵も動じず、笑みを貼り付けたまま言葉を返す。
「はいどーもイケメンでーす。セツも俺のが良いって言ってんぜ?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「クソ、結局顔かよ」
「違うと言ってるだろう」
「ハハッ。いや〜悪いね、まあセツは元々俺のだし?」
「えっ」
「な、マジか!?なんだよ、オメーらデキてんのかよ!やけに仲良いと思ったぜ……なら最初から言っとけっての」
「いや、あの……」
「てことで、セツ貰ってきまーす。じゃね〜」
「へーへー。おアツいこった」
「ちょっ……ノク?」
困惑するセツの肩をナチュラルに抱き寄せながら、ノクはその場を後にした。
通路を進みロビーまで来ると、ノクはセツを解放した。ノクは自室に戻ろうとしたが、セツが何か言いたげな顔をしているので、少しの間耳を傾ける。
「ええと……助けてくれたのは、ありがたいんだが……」
「ン?なんかダメだった?」
「いや、少し強引すぎたんじゃないかと……」
まさか恋人を騙られるとは、あまりにも予想外だったのだろう。動揺を隠しきれないセツに、ノクはライトな回答を返す。
「そうか?相手は沙明だし、多少適当ぶっこいても大丈夫だろ。ああ言っときゃ、このループではもう口説かれなくなるだろうし。なんなら今後沙明が居るループでは、俺が恋人のふりしても良いぜ?」
「そこまでは……遠慮するよ」
「そ?ま、いいけど。なんかあったらちゃんと言えよ」
ノクはそう言うと、ひらりと手を振って自室に戻っていった。
翌日。議論後、通路でセツと鉢合わせた沙明は軽いノリでセツを茶化す。
「よ。昨夜はノクとお楽しみだったか?」
行き過ぎた冗談にセツは舌打ちする。そのまますれ違おうとしたセツだったが、沙明は構わず言葉を続ける。
「でもよ、ノクだって全然チャラいじゃねーか。俺はダメなのにノクは良いのな、お前。やっぱイケメンが好きなんだろ?」
「ノクはそういうことを言わないからだ」
煽られて、セツは思わず沙明に向き直ってしまう。自分をどうこう言われてもまあ構わないが、ノクのことまで言及されるのは筋違いだ。
「沙明とは頭の出来が違うんだ、ノクは」
「ハァ?そうか?」
「それが理解できない時点で、沙明はノクの思考には追いつけない」
「オイオイ、俺のことバカにしすぎじゃね?アイツのことも買い被りすぎだろ!」
「事実を述べたまでだ」
腑に落ちない様子の沙明に、セツはさらに告げる。
「正確に言うと……ノクも、沙明と同じようなことを言う時もある。けれど、ノクのそれは全て計算の上にある。99%、裏に意図がある。ノクはそういう人間だよ」
「……ハァーン?めんどくせーヤツだな」
沙明は一瞬、目を細めたが、セツはそれを見ていなかった。
「そんなのが良いなんて、お前も案外物好きなんだな?」
「……そういうところだ、沙明」
すぐに普段の調子を取り戻した沙明に、セツは愛想を尽かして立ち去った。
さらに翌日。ノクが調理場で夕食を作っていると、沙明が食堂に現れた。
「お、沙明。お前もメシ?せっかくだしこれ食ってけよ」
「おー。頭使って腹減ったぜ」
「お前ぜってー頭使ってねーだろ」
「は?どうやったら生き残れるか、脳みそフル回転で考えまくってるっての」
「どーせ大した戦略じゃねー癖に。土下座とか」
「なっ、なんでバレてんだよ!?」
「お前のクソみてーな考えなんざ大体分かるわ」
「オメーにそれ言われんの、一際ムカつくな……」
夕食が出来上がり、二人はテーブルについた。今日の気まぐれレシピは、白身魚のムニエルだ。白米と味噌汁付き。
「そういや、この前は邪魔してくれてどーも」
「ン?ああ、こちらこそ。俺のセツに手出してくれてどーも」
「……そういうのも、全部計算ずくで言ってんのか?」
「……何の話だ?」
沙明らしからぬ高度な揺さぶりに、ノクは思わず箸を止める。
「……いや、いいわ。なんつーか……勝てねえなって思っただけ」
「はは。お前が俺に勝てねーのなんか当然だろ」
沙明は怪訝な顔でノクを見据える。煽られたから、ではない。
「何考えてんのか分かんねェな、お前」
「そうか?何も考えてねーぞ」
「……へぇ。そういう設定なのか」
その言いぐさに引っかかり、ノクの方も沙明へ探りを入れる。
「……セツが何か言ったな?」
「さぁな」
はぐらかすというのはそういうことだ。セツには多少心を開いているノクだったが、やらかしてくれたなあと内心で苦笑した。
「良いよな、お前。チャラい癖にモテそうで」
ノクが出方を伺っていると、沙明の方が先手を切った。
「あ〜?まあそうだな。モテすぎて困る位モテる」
「俺には無理だわ。お前みたいにはなれねぇ」
ノクの当たり障りのない返事に、沙明はいつになく生真面目なトーンで返す。
「……碌なもんじゃねえよ。なろうとすんな」
何か勘違いをされては困ると、ノクもやや真剣な声音で沙明を諭す。仮面を被るのは楽じゃない。それは沙明だって、ちゃんと知っているはずだろうに。
上っ面の男同士で囲む食卓は、怠くて下衆くて美味かった。その夜、ノクはグノーシアに襲われた。
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