確信の所在
- 15hono20
- 2025年12月26日
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更新日:1月1日
今日も会議が始まった。三日目。このループの乗員は十一名。潜んでいるグノーシアは二体。初日と二日目で、コメットとシピがそれぞれ冷凍され、夕里子とジョナスが消滅した。残りの乗員は七名。エンジニアと守護天使が乗船しているらしいが、名乗り出ている者は居なかった。
「会議を始めようか。何か意見のある人は?」
「じゃあ早速僕から発言させてもらうよ」
セツが促すと、隣に立つラキオが口火を切った。
「ステラ。初日から発言が乏しいようだけど、何か隠し事でもあるのかい?」
「えっ……いえ、その……わたしは……」
ラキオに正面から指を差され、ステラは口籠る。するとステラの背後に座っていたSQが振り返って追及を重ねる。
「言われてみれば確かに?ステラ、ぜーんぜん喋んないじゃーん。ナニナニ?乙女のヒ・ミ・ツ?」
「オゥケェイ、今日はステラを凍らせりゃ良いってことだな?ダンマリは見過ごせねーよなァ!」
興味なさげに寝そべっていた沙明も、ステラを責める流れに乗る。
するとステラの隣に立っていたノクが口を開いた。
「おいおい、そんな詰めんなよ〜。ステラがグノーシアなわけねーだろ?こんなカワイイんだから」
ノクは甘く微笑み、ステラの肩を優しく抱き寄せる。シリアスな場にそぐわない空虚な論理に、乗員たちは皆唖然とした表情を見せる。
そんな中、ラキオが堪え切れずに嘲笑を漏らした。
「ッ、ハハ!それで反論のつもり?全くくだらないね。これだから低脳な人間と意思疎通を図るのは嫌なンだ。特に音声伝達の上ではね」
「……ま、そうなるわな」
ノクは余裕の笑みを湛えたまま、ステラの肩からスッと手を退ける。
「ノク様……良いんです。ラキオ様のおっしゃることも、もっともですから」
ステラが引き下がろうとすると、ノクは腕を組んで冷静に続けた。
「仕方ねぇか。俺、エンジニアなんだわ。俺もステラが黙ってて怪しいと思ったんで、昨夜ステラを調査した。結果は人間だった」
「マジか!もっと早く言えよな!」
「まあ言う必要もなかったからな」
歓喜するしげみちに、ノクは淡々と返す。
「……他に、エンジニアに名乗り出る者は?」
ノクの言葉を受け、セツが促す。しかし便乗する者は現れない。
「……俺だけのようだな」
「ハン。だからって君が本物のエンジニアだとは限らないンだけど?本物のエンジニアは既に消滅、もしくはコールドスリープしていて、君はグノーシアである可能性も十分に考えられる」
ノクの真向かいから、ラキオが反論する。
「ああ、その通りだ。だから俺の発言を信頼するかどうかは、各々の判断に任せる」
ノクはあくまで理性的に立ち回る。しかしラキオも怯まない。
「信頼されるとでも思ってるの?今日の投票先に選ばれるのは間違いなく君さ。エンジニアとして名乗り出たのは悪手だったね」
「それならまず、俺のリスク評価をするか。俺がグノーシアだと仮定しよう。本物のエンジニアが名乗り出たから対抗として名乗り出る、っつー流れなら自然だよな。だが俺は今、自分から見たら人間であることが明らかな者を弁護する手立てとして、俺の意思でエンジニア権限を明かした」
「ハハッ!簡単なことだよ、ステラもグノーシアなのさ。仲間に疑いをかけられて焦ったンだろう?違うかい?」
「グノーシアは二人。そのうちの一人が特定されるリスクを冒してまで、味方を庇うか?しかもその『庇う』という行動によって、もう一人の仲間も浮き彫りになる。今お前が立てた仮説通りにな」
「それは一つの可能性でしかない。リスクを冒してでも味方を庇おうとする愚かなグノーシアが居ないとは限らないだろう?」
「なるほど。その愚かさを今自分の口から解説した俺が、あえてやってるって言いたいんだな?お前は」
「愚かさの自覚を示すことで、君は自分への疑惑を逸らすつもりなのさ」
「まあ確かに、そういう考え方もあるな。じゃあもっと言うと、先にエンジニアを騙ることで本物のエンジニアが名乗り出てくる可能性だって十分にある。グノーシアとしては、エンジニアが名乗り出ないうちに退場させられれば儲けもんなわけだから、この状況であえて本物のエンジニアを炙り出そうとする必要は無いと俺は思う。もし俺がグノーシアなら、マジでとんでもねえ愚か者だなぁ?」
「そうやって都合良く印象操作をして、議論をリードしようとするのが証拠さ。いよいよ怪しいね。やはり君こそグノーシアだ」
「俺だってこんな目立つこと、本当はやりたかねーっての。まあでも名乗り出ちまった以上、俺の考えは伝えとこうと思う」
「まだ喚くつもり?やれやれ……結果は変わらないよ」
応酬を続けるラキオの前に、セツが手を差し出して嗜める。
「ラキオ。ノクの話を聞こう」
ノクはセツと目を見合わせて頷くと、さらに理論を並べ始めた。
「ここで俺の対抗が現れないってのはどういうことか。俺を本物と仮定すると、状況としてはふた通り。まだグノーシアが二人とも残っているが、鳴りを潜めているパターン。対抗として名乗り出ると本物を消しづらくなるんで、あえてエンジニアを一人に絞り込むっつー策かな。初日じゃねーから、本物が一人で勝手に潰れてくれる可能性もあるし。実際俺も今、ラキオに疑われてるし。こっちのパターンで俺が凍れば、グノーシアの思惑通りってことになる」
しげみちは険しい表情で、ノクの説明を理解しようと懸命に努める。沙明は飽きているのか、眠たげな顔で欠伸をしている。
「そんでもう一つは、グノーシアが既に一人、コールドスリープしているパターンだ。この場合、残りの一人がここで対抗に手を挙げるのはリスクが高すぎるんで、名乗り出ようにも出られないってわけだ」
そうなの?とSQがステラに小声で聞いている。ステラはその場合のリスクをSQに説明する。
「どちらにせよグノーシア連中は、俺にグノーシア判定を喰らっちまうともう、俺を凍らせるしかなくなる。だから俺がグノーシアを当てる前に、俺を消しに来るはずだ」
「つまり君はまだ、グノーシアを発見出来ていないンだ?初日の調査結果も聞かせなよ」
「ああ。初日に調べたのはラキオ、お前だ。俺から見ればお前は人間で確定だよ」
すかさず隙をつこうとするラキオに対し、ノクは至って冷静に対処する。人間と判定されたラキオはさらに疑惑の色濃い眼差しでノクを見据える。
「ふぅん……だからって僕は、君を信用なんかしないけど」
「そりゃどーも。まあそんなわけなんで、もし襲撃で俺が消えたら、調査結果は有意義に役立ててくれ。守護天使が残っててくれりゃ良いんだけどな。ただし俺がグノーシアという可能性もあるから、もし残ってたとしても守護してくれとは言えねー。グノーシアを守護しちまったら全くの無駄だからな」
ノクの話が一段落し、場には数秒の沈黙が流れる。
「そんで今日は結局、誰に投票すりゃ良いんだ?」
しげみちがあっけらかんとして疑問を投げる。答えが出ずにいると、再びノクが議論を回す。
「みんなが迷ってんなら、それについても考えがある。LeVi、今までの投票結果を見せてくれ」
『かしこまりました。投票結果を表示します』
スクリーンにこれまでの投票結果が表示される。座っていたSQもぴょこりと立ち上がり、スクリーンを眺める。
「さっき説明した通り、グノーシアは既に一人、コールドスリープしている可能性がある。だから既にコールドスリープした者、つまりコメットとシピ、どちらか片方にのみ投票した奴の中から一人を選ぶってのはどうだ?」
「……なるほど。コメットとシピはどちらか一方がグノーシア、もしくは二人ともが人間。グノーシアは仲間に票を入れたがらないが、人間が凍りそうならば流れに乗るだろうから……その選別は妥当、か……」
セツが顎に手を当てながら、返す。
「そう、二人ともが人間の可能性もあるから、二人ともに票を入れてる可能性もあるっちゃあるんだけどな。ただ……投票結果を見ると、コメットとシピ、両方に投票してんのは俺とステラだ。そもそもこの選別法は、俺を本物のエンジニアと仮定する大前提がある。つまり俺、ステラ、ラキオはこの選別に含まれない。だからここは除外していい」
「てことは〜?どっちか片方にだけ入れてるのは……しげみちとセツ、かニャ?」
「ですが、ノク様。シピ様とコメット様、どちらにも投票されていない方々を、考慮しなくてもよろしいのでしょうか?」
「シピとコメットのどちらか片方は確実に人間である以上、さっきセツが言ったように、人間が凍りそうならグノーシアは流れに乗って票を入れやすいと考えられる。だからこの状況でどっちにも投票してねー奴がグノーシアである可能性は比較的低いと、俺は思う。もちろんゼロじゃねーけどな。もしそこに当たっちまったら、運が悪かったと思うしかねえ。これはあくまで、より可能性が高い方を絞り込むってだけのやり方だ」
「はぁー。何言ってっかサッパリわかんねーわ」
会議の終了が近いので、沙明も立ち上がり、スクリーンの前にやって来る。
「ま、そういう選び方もあるっつー話だな。重ねて言うが……俺を信用するかどうかは、自由だぜ。自分の理論があるんなら、それを信じりゃ良い」
『時間です。投票を開始してください』
LeViのアナウンス。乗員たちはそれぞれの思惑で、一票を投じる。
投票の結果、しげみちのコールドスリープが決まった。
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四日目。メインコンソールに集まった乗員は六名。ほっとした様子のセツが、皆に微笑みかける。
「被害者は居ないみたいだね。みんな無事で何よりだよ」
そんなセツをノクは横目に見ながら、腕を組む。
「守護天使がいい仕事したな。んじゃ、まずは俺から報告させてもらおうか?」
ノクは表情を変えないままに続ける。
「エンジニアとして、セツを調査した。結果は黒。グノーシアだ」
その台詞に、場の空気がピリつく。
「……そうか。とすると私の立場からは、ノクがグノーシアであることが確定したね」
「ああ。そうなるな」
セツは静かに事実を述べ、ノクもまたそれを静かに受け入れた。
「まずは状況を整理するべきだ。LeVi、投票結果を」
『はい。投票結果を表示します』
ラキオがすかさず議論を進める。スクリーンには投票結果が表示された。
「……しげみちはノクに、シピはセツに、ノクはシピに投票した履歴がある。つまりこのペアが互いにグノーシアである可能性は低い。仮にグノーシアが一人排除されているとすると、可能性のあるペアはセツとコメットのみだ。まあ仲間を見捨てている可能性がゼロではないから、一概には言えないがね」
過去の結果を確認しながら、ラキオは一つ一つ情報を拾い、筋道を立てていく。
「当然、グノーシアがまだ二人残っている可能性もある。その場合、今日グノーシアの排除に失敗すると、今夜グノーシアの襲撃が成功した時点で、グノーシアと人間が二人ずつとなり、船は制圧される」
「じゃあ今日、誰を冷凍するべきなんだよ?」
段差に腰掛けた沙明が口を挟む。
「仮にノクをグノーシアとすると、そのペアはやはりステラだろうね。あえてエンジニアを騙ってまで庇う理由が見つからない」
「でもノクがホンモノかもしれないんでしょ?ステラを冷凍したらいいってコト?」
SQも続けて疑問を投げかける。
「……ステラはどう思う?」
ステラへ向きそうになった流れを、セツが止めた。
「……これは、憶測でしか無いのですが……本日、被害者が出なかったのは、ノク様が守護されたからではないでしょうか?」
「つまり……ノクが本物のエンジニアだと言いたいんだね」
「ええ……この状況で守護天使様が残っているとしたら、ノク様を守護している可能性は高いです。同様に、グノーシアがノク様を狙う可能性も高いと考えられます」
皆、黙ってその言葉に耳を傾ける。
「ですから。もし本日、守護されたのがノク様であるならば。守護天使様ご本人は、ノク様が本物のエンジニアであることを、知り得ているはずなのです」
「だが当然、他の者が守護された可能性もある。その場合、ノクの調査の真偽は守護天使にとっても不明……」
ラキオが抜かりなく、前提条件を補足する。暫しの沈黙。
「他に、意見のある者は?」
セツが皆の様子を察し、会議をまとめにかかる。
「……居ないようだね。あとは個人の考え方次第……だね」
『それでは、投票を開始してください』
アナウンスに続けて、投票が始まる。
──結果。セツのコールドスリープが決まった。
グノーシア反応は消失し、人間の勝利が確定した。
セツのコールドスリープを見届けた後、メインコンソールに居たラキオの元へノクがやって来た。
「よ、勝ったな」
「僕が居るンだ。当然だろう?」
「はいはい、そっすね」
ノクは軽く受け流すと、ラキオに本題をぶつけた。
「セツに投票してたな?」
「……だから?」
「いや〜?昨日さんざん俺のこと疑ってたくせに、意外だなと思ってよぉ」
「フン……この状況では、守護天使が君を守った可能性が高いと判断した。それだけだ」
「本当か?それにしても、俺とステラがグノーシアである可能性も消えてねーなら、そっちを先に片付けるっつー手もあったんじゃねーのか?グノーシアが二人残ってると、人数的にマズかったわけだし」
「僕が誰に投票しようと、今日選ばれたのはセツだ。結果は同じだったよ」
「嘘だな。お前はそんなタマじゃねえ」
「どういう意味だい」
ラキオが苛立ちを露わにする。ノクは相変わらず飄々として返す。
「お前には俺が本物だという確信があったんだ。セツがグノーシアだという確信があったから投票したし、そもそも議論を派手に動かそうともしなかった。違うか?」
それを聞いてラキオは、普段通りに口角を吊り上げた。
「……ハッ、大した自信だね。そうやって根拠のない理屈を自慢気に披露する君の姿、とんでもなく愚鈍に見えるよ。まあ実際そうだから、言い返せないだろうけど?」
「ほーん。図星だからって皮肉に逃げるお前の方がよっぽどじゃねえか〜?なんか昨日までの方が、皮肉のキレも良かった気がするぜ?ハハッ!」
ノクも互角の煽りで張り合って見せる。ラキオはノクを上目遣いに睨みつけると、つかつかと歩き出す。
「……全く不愉快だ。失礼するよ」
逃げられたか、とノクはラキオの背中を見送る。
良い仕事をしたのは一体、誰だったのだろうか。真相も本音も、本人だけが知っている。
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